第8話
雨雲は完全に空から去り、辺りを月の光が照らしている。昼間のように周りの景色を見ることができるほどの明るさだ。
バルビートとイルミーゼは、ピィを連れて、川をさかのぼっている。
「ところで、ショーって何やるん?」
バルビートの背中に乗ったまま、ピィは問うた。羽を一生懸命動かしてイルミーゼについていこうとするバルビートは振り返らずに言った。
「ダンスの他に、ライトアップもやるんだ。ほら、僕らは自力で明かりをともせるだろ、その光を利用して、月の光に負けないようなライトアップをするのさ。僕らが言うのもなんだけど、とてもきれいだよ」
「へー、そうなんか。キレーなライトアップ! イルミネーション! ごっつ、見てみたいわあ! はよ連れてってや!」
はしゃぎ始めるピィ。
「あっ、そうだわ」
先を飛んでいたイルミーゼが引き返してきて、
「あなた、ちょっといいかしら?」
「何なん?」
「どんな技が使えるの?」
「せやなあ……」
「覚えてるだろ、今夜はバルビートとイルミーゼのショーだ!」
コノハナの言葉に、皆「アッ」と声をあげた。
「そうだ、今夜はショーだ!」
ブルーは牙をカチカチ鳴らした。
「バルビートたちに手伝ってもらおうぜ! 明かりがあると有難いしな!」
「そうときまれば、急いで川上に戻ろうぜ!」
「ショーが始まる前に、急がなくちゃ!」
雨がやむと同時に、皆そろって木の下から飛び出した。川をさかのぼり、雲の隙間から出てくる月の光を頼りにして走る。バンジージャンプで飛び降りたガケを川沿いにさらにさかのぼると、やがて岸辺が見えてくる。その奥に、はやくもいくつもの光が飛び回っているのが見える。
「もうショーは始まってるんだな!」
皆の足も自然と速まった。はやくバルビートたちに事情を話してピィ探しを手伝ってもらわなくてはならないから。
ショーの開かれる岸辺。少し離れたところにはポケモンたちが集まってきている。たくさんの木の実が持ち寄られ、どこかから拾ってきたらしい大きなタライは綺麗に洗ってあり中にはツボツボの木の実ジュースが入れてある。葉っぱを編んだカップが配られており、飲みたい時は、これまたどこかから拾ってきたらしい茶碗を使ってカップにジュースを注ぐのである。
息を切らしてやっと辿り着いたアーボたちを、皆は驚きの目で見た。どうやらショーに遅れると思って急いできたのだと思われたらしく、
「まだショーは始まってないから大丈夫だって」
「ちがっ……」
ジュースをがぶ飲みして喉の渇きをいやしてから、アーボは説明した。昼間この田舎にやってきたピィがバンジージャンプをした結果、増水した川に落ちて流されてしまったこと、今ピィがどこにいるかわからないので、明かりを持つバルビートとイルミーゼたちに協力してもらうつもりだということ。
「もしかするとさ、池に流されちまってるかもしれねーし、あるいはガケ下に放り出されたかもしれねーしさ」
コノハナはもう一杯ジュースを飲みほした。
「とにかくショーの後でも前でもいいから――」
誰かが遠くで「シーッ」と言った。
ショーの始まりなのだ。皆黙って、川の空間の一点を見つめる。こうなるともう話を聞いてもらえる雰囲気ではなくなってしまう。
「さあ皆さん、大変お待たせしましたあ」
木々の間を抜けてきた、まだ若いバルビートが飛んできた。薄い水色の光を放っている。
「これから毎年恒例のメインイベント、蛍光ショーのはじまりでーす!」
ポケモンたちが歓声を上げた。こうなると、もう誰も話は聞いてくれないかもしれない。
たくさんのバルビートとイルミーゼが木々の間をぬって飛んできた。さまざまな色の綺麗な光を、体から放っている。いつもは黄色だけなのだが、このショーを開催する時は、食べる木の実の量を工夫して、望みの色が出るよう体の調子を整えているのだ。
たくさんの光が、木々の奥から飛んできて、美しい光の輪を作り上げた。先に飛んできたバルビートたちの後、イルミーゼたちが薄い水色の光を放って、黄色と水色の美しい二つの輪を作る。年老いたバルビートとイルミーゼは川岸で赤と桃色の綺麗な光を作り上げている。美しい光は輪を作り、花火のように飛び散り、美しい光の筋や弧を描いた。都会のイルミネーションよりもずっと美しいライトアップ。バルビートとイルミーゼの踊りは、皆を魅了した。ピィを探してもらおうと急いでやってきたはずのアーボたちでさえ、その踊りに見とれていたほどだ。
このショーが盛り上がってきたところで、
「さー、皆さま。盛り上がってきました! これから始まるショーは一味違う! 今宵は特別ゲストをお迎えしてのショー! さあどうぞ!」
甲高い幼いイルミーゼの掛け声と同時に、そのゲストが、バルビートの背中に乗って姿を現した。
「ああーっ!」
アーボたちは思わず大声をあげた。
「あーっ」
ゲストのピィも大声をあげた。
ピィは頭をカゴの花輪でかざり、綺麗におめかししていた。
アーボたちは皆を押しのけて、川岸へ出た。
「なんでお前ここにいるんだよ! どんだけ心配したと思ってんだ!」
「池に流されてもうて、雨にふられて……」
「池か、よかった……というか何そのカッコ」
「ア、 おめかししてるんよ」
「でもどうしてここにいるわけ?」
その質問にはバルビートが答えた。
「あ、僕らが声をかけたのさ。で、迷子らしいし、ちょっとした技を使えるからショーに出てみないかって誘ってみたんだ。君たちの友達だったの?」
「友達っていうか、成り行きで知り合ったんだ。で、ショーのゲストだなんて、オッケーしたのかよ、お前」
「うん、面白そうやから」
「お前なああああっ」
かみつきそうなアーボの剣幕を、バルビートはなだめた。
「まあまあ。無事だったんだし、今はショーのゲストとしてここに来てもらってるんだからさ」
「うぬぬぬ……後でおぼえてろっ!」
「わかっちょる」
そして、アーボたちが戻ってから、ショーが再開された。
拍手がわきおこった。
「ほんなら気合いいれて、いっちょいくでー! マジカルリーフやあ!」
ピィがマジカルリーフを辺りに舞い散らせる。同時に、イルミーゼたちが虫のさざめきを放つ。マジカルリーフは虫のさざめきで小さく細かく砕かれ、辺りに舞い散る。バルビートたちが一列になって飛び回り、マジカルリーフの小さく光るカケラを空に舞いあがらせる。月の光が照らすなか、綺麗なカケラがまるで粉雪のように降り注いできた。拍手喝采。
「アンコール! アンコール!」
その言葉に応え、ピィはもう一度マジカルリーフを放つ。イルミーゼたちは、今度は銀色の風で葉っぱを舞い散らせる。バルビートとイルミーゼは円を作り、舞い散る葉っぱの中で踊る。色とりどりの光をはなち、光のダンスはつづけられた。
「さあフィニッシュやで!」
ピィはとっておき中のとっておき、ゆびをふるを繰りだした!
辺りはピカリと光り輝いた。光が弱まると、皆の目の前には大きな虹が姿を現している。表れた力は、目覚めるパワー!
大きな虹は、パチンとはじけ、無数のシャボン玉になった。さらにピィがまたマジカルリーフを放ってそれらを砕く。きれいなシャボンはパチンパチンと割れて行き、きれいなしずくを降り注がせたのだった。
喝采、割れんばかりの拍手。繰り返されるアンコール。
延長後三時間にもわたって続いた光のショーは、バルビートとイルミーゼのダンスでしめくくられた。歓声も拍手も、ずっとずっと続いたのだった。
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