第9話



 バルビートとイルミーゼのダンスがショーを締めくくったが、最後のアンコールで、ピィは再び、ゆびをふるを繰り出した。今度はハイドロポンプがあらわれ、上空に向かって大きな噴水を作り上げた。バルビートとイルミーゼはすかさず、ハイドロポンプの巨大な噴水の周りを囲み、もう一度美しいダンスを披露した。噴水が光を反射したダンスは、美しかった。キラキラと光るしずくが降り注ぎ、幾種類もの光に照らされた噴水は月の光も浴びてより一層美しいものとなった。
 ショーが終わり、ポケモンたちはショーの興奮冷めぬまま、本日のゲストを胴上げ。ピィは嬉しそうにキャッキャとはしゃぎ、放りあげられるたびに、マジカルリーフを空にパシパシと舞い散らせた。バルビートとイルミーゼはピィにショーの手伝いをしてくれた礼を言い、「後で食べて」と、持ちきれないほどたくさんの木の実をくれた。他のポケモンたちが帰ってそれから五分後、ピィは、カゴの花のおめかしをしたまま、アーボに怒られていた。ピィは大人しく聞いているように見えて、実はろくに聞いていなかった。疲れていたのだから。アーボは、ピィがうとうとしているのに気付かないまま、説教していた。
 月が南の空へ昇ったころ、やっとアーボは説教をやめた。そのころには、他の皆もくたびれてうとうとしていたのだった。
 肝心のピィはというと、
「あーっ、お前寝てるじゃんか! せっかく色々話してたのに!」
「ぐうううう」
 ピィはぐっすり眠っていた。
 噛みついて起こしてやろうといきり立つアーボに、
「まあまあ、疲れて寝ちゃってるんだしさ、寝かしておいてあげなよ」
 転寝から覚めたコノハナがアーボを止めた。ウパーとブルーはもう眠ってしまっている。コラッタは木の根をかじりながら眠ってしまっていた。
「それにさ、明日帰っちゃうんだろ、汽車で。起きられなかったら困るからさ、この子が。寝かせとけよ」
「でも――」
「説教くらい、明日駅まで行きながらでもいいだろ、お前だって疲れてんだし、もう寝ろよ」
 今日一日のピィのおもりで疲れていたのは事実だった。それに、コノハナはこの辺りでは一番の早起きなので、起こしてくれることを期待して、アーボは寝ることにしたのだった。
 寝静まった森。月の優しい光が、辺りを明るく照らし出していた。

 くたびれきったピィは、木の実を食べるのも忘れてぐっすりと眠っていた。夢の中では、今日一日起こった出来事が、まるで紙芝居かスライドショーのように次々と現れては消えていく。楽しかったアスレチック、ドキドキしたバンジージャンプ、川に流された怖さ、ショーの楽しさ……。
「むにゃむにゃ……アンコール、アンコール……」
 夢の中でもまだ、ショーのアンコールをもらっていた。きれいな光、スポットライトがわりの蛍の光、木々と小川のステージ……。そこでピィはスターになっていた。繰り返されるアンコール、それに応えるピィ。
「むにゃむにゃ、うちはスターやでええ……」
 その寝ごとに応えるかのように、アーボの尻尾がピシピシとうごいてピィをはたいた。
「うるせーなー……」
 こちらも寝ごとなのだが、ピィのおもりをしている夢であった。ピィは寝がえりをうった拍子にアーボの尻尾をつかみ、それを花束と間違えているらしく、ふった。アーボは尻尾をつかまれ、唸ったが、疲れていたせいか、起きなかった。

 平和な夜だった。


 朝五時頃。朝日がもう辺りを明るく照らし始めている。眠っていたコノハナは目を覚ました。
「ふあっ」
 よく寝たと背伸びをする。そして周りを見る。そうだ、たしか昨夜はバルビートとイルミーゼのショーがあって……。
 今朝、何かすることがあったような……。
 アーボにしがみつく姿勢で眠っているピィを見るなり、コノハナは思い出した。そうだ、このピィは六時の汽車に乗らなければならないのだ!
「お前ら、起きろ!」
 友達を急いでたたき起した。皆、目をこすりながら起きた。
「なーにー?」
「まだ早いじゃん……」
「早くなんかない! さっさと出かけるぞ!」
「なんで……」
「お前ら忘れたのかよ! 朝の汽車に間に合わすためだろ!」
 不満たらたらだったが、コノハナの一言で、皆の眠気はいっぺんに吹き飛んでしまった。
「そうや、うち、今日の汽車で帰るんやったわ!」
 ピィすら驚いている。当の本人が忘れていたとは……。
「と、とにかく急ぐぞ! こっからだと、ちっと遠いからな!」
 皆、跳ね起きて、木の実を一つ腹に入れてから駆けだした。
 ピィだけは、アーボの背中に乗って。
「さ、早く行ってや」
「お前ってやつは!」
「えーからえーから」
 時間がなかった。アーボは仕方なく、皆の後を追った。
「とにかく行くぞ! 駅まで」
「ええで」
 ピィはモモンの実を一つほおばった。


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