第3話



 水遊びをした後で体についた水気を払ってしまうと、ライチュウは仲間と一緒に木の実を採った。ブリーの実、モモンの実、チーゴの実。クラボの実は季節はずれのため、まだ実っていない。
 朝日を浴びた卵がどんな風に光るのか知りたがった皆は、木の実採りを終えると、一斉に巨木の洞の前へと詰めかけた。わらや草を取り替えるために、洞の中を掃除したので、洞には卵しか残っていないはずである。
 手の中にたくさん木の実を抱えて戻ってきたライチュウは、洞の中を覗きこんだ。
「アレ?」
 首をかしげた。
 卵が、倒れている。
 掃除をしたときには、ちゃんと真っ直ぐに置いてあったはず。
 ライチュウは急いで洞に入り、卵を調べる。さいわい、卵は割れていない。
「どしたんだよ」
 エレキッドとココドラが洞の中へ入ってくる。
「卵、どうかしたのかい」
「卵、倒れてたんだよ。今朝は、倒れてなんかなかったのに」
 ライチュウは尾を振りながら答えた。卵が無事だったので一安心したのと、なぜ卵が倒れたのかわからない疑問が混じって、ライチュウの表情は複雑である。
「ところで」
 卵のにおいをかぎながら、ココドラが問うた。
「これ、鉄でできてんの?」
 金属を食べるココドラは、この光る卵が金属で作られたと思っているらしい。金属は、磨けば光るのだから。
「違うと思うよ」
 ライチュウは答えたが、半分自信がなさそうだった。
 ライチュウ自身、この卵がいったい何なのか知らないのだから。
「鉄っぽい光りかたしてるなあ」
 ココドラは卵をぺろりと舐める。だが、ぶるっと首を振った。
「う、これは鉄じゃないよ。辛いんだか甘いんだか、よくわかんない味がする」
「そうなの?」
 洞をのぞくほかのポケモンたちは、我も我もと洞に入ろうとするが、ライチュウの電気ショックでいったん退いた。
「みんながいっぺんに押しかけたら、押されて卵が割れちゃうよ。それより、卵をお日様の光に当てるから、誰か手伝って」
 ワンリキーとオコリザルが卵を慎重に運び出した。他のポケモンたちは、卵が草地に置かれるのを待って、一斉に卵を取り囲む。
 朝日を浴びた卵は、まるで水晶のように透明で美しい光を放ち、ポケモンたちはうっとりと眺めた。
 幻想的な光。朝日が雲にわずかに隠れると、まるで卵が虹でできているかのように、卵は七色に光った。
「きれいだなあ」
 ポケモンたちは、そろって感嘆のため息を漏らす。ライチュウもまた、卵の放つ光に見とれた。一日眺めていたくなるほどの美しさ。
 その時、
「ただいま、帰ったぞおー」
 上空から声が聞こえてきた。そして、声の主は卵の上に影を落とし、その影は徐々に大きくなった。ポケモンたちは一斉に上を見上げる。
 年老いた、大型のヨルノズク。
「あっ、物知り博士だー」
 ポケモン渓谷いちの物知りとして知られるこのヨルノズク。今まで越冬で南下していたのだが、今日になって渓谷に帰ってきたのである。
 ヨルノズクは卵の上に降り立ち、皆を見回した。
「なんじゃなんじゃ、皆してわしを出迎えてくれたのかね」
「どいてよ、博士! 卵が割れちゃうよ!」
「卵?」
 ヨルノズクは足元を見る。
「こりゃうっかりしておった。てっきり岩か何かと」
 飛び上がり、手近な木の枝に降りた。
「ところで、この卵は何かね? こんな巨大な卵、見たことないぞ」
 ライチュウが代表で説明した。ヨルノズクは首を傾けて聞いていたが、話が終わると、くちばしを開いた。
「確かに、わしの知るかぎりでは、こんなに巨大な卵を産むポケモンはおらん。だが、卵があるというからには、誰か親がいるはず」
 ヨルノズクは卵をじっと見つめた。ヨルノズク得意の『見破る』である。卵を透視することによってどんなポケモンが中にいるかを確かめようとしているのであろう。
「ふ〜むむむむ……」
 あんまり熱心に卵を見つめるので、他のポケモンたちまでつられて卵を見つめた。
 ヨルノズクは、ゆっくりと目をそらす。ポケモンたちは、何か見つけたのかと、つられて視線を卵からそらした。
「この卵の中は――」
『中は?』
 一斉に皆が聞き返し、返答を待った。


「何にも見えなかった」


 ポケモンたちは、一斉にずっこけた。
「み、見えなかったってえー?」
「思わせぶりすぎるよー」
 口々に文句を言ったが、ヨルノズクは言い訳しない。
「見えなかったんじゃ。わしの『見破る』が効かなかったんじゃ。じゃからして、卵の正体など、なんにもわからんわい」
 太陽を隠す雲が風に流れて去り、また朝日が卵に光を投げかけた。卵は七色に輝いただけでなく、眩しい光を反射して、磨き抜かれたダイヤモンドのごとく美しい光を放つ。ポケモンたちはまた一斉に、その光に見とれた。
「不思議な光じゃのう。心が安らぐわい」
 ヨルノズクは目をぱちくりさせながら、光を見つめた。
 太陽が雲に隠れると、卵は光らなくなった。
「さて」
 ヨルノズクが口を開く。
「この卵、どこで見つけたのかね」
「あそこ」
 ポケモンたちは一斉に巨木の一本を指す。
「あの地面の中から、突然卵が出てきたんだよ。でも、地面の中に、卵なんかうまってなかった」
 ダグトリオが説明する。普段から地面に穴を掘っているダグトリオだが、埋まっていなかったというところからして、この卵が地面のどこから出現したのか、全くわからないらしい。
 ヨルノズクは大きく首をかしげた。
「地面から現れた? ほんとかね」
 他のポケモンたちが一斉に、見た見たと言う。誰もが、地面から突然卵が現れたことを目撃していた。その返答にヨルノズクは九十度ちかくまで、首を横に傾けた。
「これだけ目撃談が多いとなると、ただ事ではないのお。この卵、一体誰のもの――」

 キュドッ!

 突如、閃光が飛来した。
 閃光は、卵を取り囲むポケモンたちのすぐ側の地面に飛来し、爆発する。ポケモンたちは突然の出来事にうろたえ、悲鳴を上げた。
「落ち着いて!」
 ライチュウが電気ショックを起こす。
 閃光が次々と飛来する。ライチュウは十万ボルトで迎え撃ち、閃光を打ち消した。
「誰だっ」
 頬袋に電気をため、いつでも放出できるように準備したライチュウは、閃光の飛来してくるところを探す。
「あっ」
 誰かが声を上げる。皆が一斉にそちらを向く。
 雲に隠れた太陽が、眩しい光を投げかける。卵は光を浴びて、また七色の光を放つ。だが今は、誰も卵の方を向いていなかった。
 太陽の光は、卵だけでなく、皆が見ている小さな岩を照らし出していた。その岩の上に乗っているのは、均整の取れた体格を持つ、一体のアブソルだった。
 先ほどの閃光はアブソルの発したものであるらしい。
「お前さんは、なぜここに……!」
 ヨルノズクが声を出す。だがその声は、震えていた。アブソルはヨルノズクにちらりと視線を向ける。だがすぐに、ポケモンたちに視線を向ける。
「貴様ら、その卵の危険性を知らぬと見えるな」
「危険だって?」
 ライチュウが聞き返す。だがアブソルは、ライチュウの言葉を無視した。
「その卵は全てのポケモンに災厄をもたらすもの。今からでも遅くはない。中のものが生まれぬうちに、その卵を砕くがいい」
 ポケモンたちは一斉に、衝撃の稲妻に撃たれた。
 虹色に光る卵は、アブソルの言葉にかかわらず、ポケモンたちがアブソルの言葉に衝撃を受けているにもかかわらず、相変わらず美しい光を放ち続けていた。


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