第3話



 マグマッグの体から放たれる光は、洞窟の先を照らすには不十分だが、周囲を見るだけならば十分すぎるほどだった。マグマッグとマリルは、坂を下った後、炎の体の発する光を頼りに、前へと進んでいった。洞窟の道はどんどん細くなり、ポケモン一匹がかろうじて通れるほどにまで狭まる。その頃になると、マリルはマグマッグの背中に乗って休憩していた。溶岩ポケモンであるマグマッグの背中は、柔らかくて熱い。熱いが、この寒い洞窟の中ではちょうど良い暖房になっている。マグマッグは足が遅いが、マリルは急いでとせかすことなく、マグマッグの背中の上でのんびりと休んでいた。しかし、この先に何者かがいることは承知していたので、どんな小さな音も聞き逃すまいとして、耳に全神経を集中させていた。今のところ、マグマッグが前進する際の液体が動くような音と、それに伴って小石がコロコロと転がる音以外には何も聞こえなかった。
 そうして奥へ奥へと進んでいくと、突如、マリルが待ってという。丸い耳をぴくぴくと動かす。
「誰かの足音がするよ?」
「誰かいるのか……」
 マグマッグは歩みをやめる。溶岩ポケモンなので足などないのだが。
 マリルはなおも耳をそばだてる。
「何か言い争っているみたい。二人、かな?」
「行ってみよう」
 マグマッグは精一杯の速さで進んだ。
 ある程度進んでいくと、地面がでこぼこしてきた。道はいよいよ狭くなってきたが、周りを見回すと、なにかで引っかいたような跡が、岩壁や鍾乳石についている。そしてその傷跡がある部分の岩や壁は抉られて、新たな道となっていた。しかしその道が作られた場所に限って岩のかけらが地面に落ちて、道を余計にでこぼこさせていた。
 しばらく進むと、マグマッグにも、マリルの言っていた、争っているような声が聞こえるようになってきた。マグマッグの光る体では目立つので、一旦マリルがその背から降りて、先に様子を見てくることにした。
 マリルは転がるように駆けていき、近くの鍾乳石の陰に隠れて、言い争っているような声の主を確認すべく、そっと覗いてみる。
 通路の終わりなのか、ここは広々としている。その先には行き止まりがある。行き止まりの前には、明かりの代わりらしいヒカリゴケが広々と絨毯を作っている。そして、その絨毯の上で、二匹のポケモンがなにやら言い合っていた。
「どうすんだ、俺の爪でも壊せないぜ。やっぱりお前がゴーリキーとかカビゴンとかに変身してだな……」
「メタは一度変身すると、あと三十分は変身できないメタ。わかっているはずメタ! だからそっちが何とかするメタ」
「そういわれてもな、俺の爪でも歯が立たないんだぞ。爪がいてえや」
 言い合っているのは、ザングースとメタモンであった。二匹はマリルに気づかず、言い合っている。
「そりゃ知ってるメタ。でもメタが変身できるまで、もう少しかかるメタ」
「俺だってな、渾身の力を込めたブレイククローとメタルクローを放ったんだ。爪がいてえんだよ、今は。しかし、ここでもたついてる訳にはいかねえ。なんとかしてこの大きな岩を壊すなり退かすなりしねえと」
 ザングースは鋭い爪をさすりながら、目の前にそびえる岩壁を見る。どうやらこの岩壁は、大きな岩らしい。この二匹のポケモンは、目の前の岩壁を壊そうとしているようだが、あの岩についている無数の爪痕を見る限り、かなり苦労しているようだった。それだけあの岩壁が固いという事だろう。
「ついてねえなあ。こんな浅いところで足止め食らうなんざ」
 マリルはそれだけ聞くと、一旦マグマッグの元へ戻った。マグマッグは通路でじっと待っていたが、マリルが戻ってくるなり、矢継ぎ早に質問した。
「向こうに何がいたの? どんな奴だった? この先には何があるの?」
 マリルは落ち着いて返答した。
「ザングースとメタモンがなにか言い合ってたよ。この先には行き止まりがあるんだけど、でっかい岩壁みたいなの。岩壁を何とかして壊したがってたよ」
「ザングースとメタモンって、ひょっとして、洞窟の見張りを倒した連中なのかな」
「そうなんじゃない?」
 マリルはまたよちよち歩いていくが、マグマッグが止める。
「どこ行くの」
「どこって、あっちにいたザングースたちに聞きに行くの。なんでこの洞窟の中に入ったのかって」
「やめときなよ、死にに行くようなもんじゃないか!」
 マグマッグが悲痛な声を上げる。
「分かってるじゃねえか」
 マリルの背後から声がした。同時に何かが闇にひらめく。マリルは間一髪、振り向き様に足元の石ころで躓いて転び、その一閃を免れる。一閃は鍾乳石に当たったが、当たった側から鍾乳石は粉々に砕け散った。
 マリルの後ろに、ザングースが立っていた。
「てめえら、俺らの後をノコノコとついてきやがったんだろう。そっちのマグマッグは、あの洞窟の見張りどもの仲間ってとこかあ?」
 鋭い二本の爪を、マリルに向ける。
「そんでこっちのマリルは、俺らと同じようにこの洞窟の中にあるモンを求めて、そのマグマッグを説き伏せるなり脅すなりして、入ってきたんだろ? 違うかあ?」
「違うよお」
 マリルは起き上がる。相手が鋭い目で睨みつけても、マリルは丸いつぶらな目で見返した。ザングースを見つめ返すその目には、一かけらも嘘はない。
「マグマッグはあたしの友達だもん。脅したりなんかしないもん」
「あたしの友達、ねえ」
 ザングースは爪を鳴らす。その爪が、マグマッグの放っている光を反射し、ギラッと光った。
「だったら、その、お前のお友達に聞いてみようか」
 そして、
「てめえが、この洞窟の中に入ってきた理由をな!」
 ザングースは一瞬後、マグマッグに向かって飛びかかった。


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