第4話



 ザングースが、鋭い爪をぎらつかせ、マグマッグに飛びかかる。マリルは何がおきたか分からなかったが、友達が危ないと察し、水鉄砲で攻撃する。勢いよく噴射する水鉄砲は空中のザングースに向かう。しかしザングースは、ブレイククローで勢いよく水鉄砲を引き裂いてしまった。
 ありえない。
「こんな水鉄砲で、俺を止められるとおもうなよ!」
 空中からザングースが落下してくる。マグマッグは体を震わせたが、本能的に鍾乳石の側に落ちている岩石を放る。岩落としだ。しかし、落ちてくる岩石全てを、ザングースはその爪で引き裂いてしまった。岩石は全て小石の雨になり、あたりに四散した。
「マグマッグ、火炎放射やって!」
 マリルが叫ぶ。ザングースが襲ってくる事への恐怖で体を震わせていたマグマッグだが、マリルの言葉に従った。助かるなら何でもやる覚悟で、火炎放射を口から吹き出す。同時にマリルが水鉄砲を勢いよく噴出した。
 火炎放射と水鉄砲が同時にぶつかり合い、水蒸気爆発を起こした。
 耳の鼓膜が破れそうな大きな音が洞窟にこだまして、爆発の衝撃で辺りの壁にわずかな亀裂が入る。爆発をくらったザングースは、かろうじて受身を取り、地面に着地した。爆発の際に発生した水蒸気がもうもうとたちこめ、一時的に視界が悪くなる。
「くっ、目潰しか?!」
 ザングースの慌てたような声。マリルは大急ぎで、自分の耳に情報を集める。聞こえてくるのはザングースの息遣い。そのもっと奥に、霧に包まれて、マグマッグが慌てて体を交代させている液体音。水蒸気の向こうで光るものが徐々に小さくなっていくのが見える。あれを頼りにマグマッグの元へ走るしかない。
 音と光を頼りに、マリルは精一杯走る。その途中、毛だらけの柔らかいものにぶつかった。
 ザングースだった。
「なんだてめぇ。俺から逃げようってのか」
 ザングースはマリルの姿を見つけるや否や、爪を振るってきた。マリルは驚いた拍子に足元の石につまずいて転び、爪の一撃を免れる。
「運のいいやつだ!」
 ザングースがもう片方の腕を振り上げようとしたとき、背後から炎が襲った。
 火炎放射だ。
 反射的に振り向いて、ブレイククローで炎を引き裂く。しかしそこに隙が生まれた。ザングースのすぐ側に倒れたマリルが、ザングースめがけてハイドロポンプを噴出したのである。水鉄砲の数倍以上もの威力のあるハイドロポンプは、すぐ側にいるザングースに勢いよく命中し、ザングースは岩壁に叩きつけられた。
「大丈夫?」
 マリルはマグマッグの元へ駆け寄った。マグマッグは体を震わせていたが、やがて口を開いた。
「だ、大丈夫……オイラは何ともないよ」
 水蒸気が晴れて、あたりが見えるようになった。周りを見ると、水蒸気爆発と、ハイドロポンプで叩きつけられたザングースによって、壁や天井に細かいひびが無数に走っている。今はまだ落盤の心配はない。
 ザングースは、岩壁にめり込んでいたが、どうにか自分の体を引きぬいた。がぽっと音を立てて体を引き抜いた後、ぶるっと身震いして、毛皮に付着した小石や砂を落とした。
「くそ、こんなザコどもに苦戦するなんて……」
 その時、ザングースのめりこんでいた壁から、一直線に、天井まで大きな亀裂が走った。ピシピシと大きな音を立て、すぐに天井と付近の壁が崩壊し始める。
「危ない!」
 一同はとっさに洞窟の奥へ逃げる。天井と壁の一部が崩れ落ち、ガラガラと地響きを立てて、積み重なっていった。やがて地響きがやみ、辺りは静かになった。腕のないマグマッグを抱きしめるようにしてしがみついていたマリルは、土煙が収まると、周りを見回した。皆無事だ。しかし、
「あっ! 出口が!」
 ほんの十秒足らずの出来事であったが、その短い時間で、洞窟の退路は、完全に塞がれてしまったのだ。
「ど、どうしよう……」
 マリルは、岩の積み重なる通路へ駆ける。しかし岩は隙間なく積み重なり、押せどもひけども動かない。それ以前に、様々な岩が積み重なっているので、一つ除けるだけで岩なだれがおきるだろう。見た限り、どの岩を抜いても、確実に崩れ落ちてくる。動かさないほうが良さそうだ。
「どうしよう、出口がふさがれちゃった!」
「ええっ」
 マリルの声に、マグマッグが驚きの声を上げる。
「出られないって事?」
「うん」
 マリルはあっさりと返事した。マグマッグは、驚愕で体の溶岩をぐつぐつと沸き立たせる。それが収まった後、しょんぼりと目を伏せた。
 ザングースが、出来たばかりの岩壁に近づく。
「こんなもん、俺の爪で粉々に――」
「やめるメタ!」
 皆の背後から声。振り返ると、メタモンがいた。
「これ以上洞窟の中で暴れたら、それこそメタたちまで巻き添えを食うメタ! ここは大人しくするのが懸命メタ!」
 メタモンは皆の間に割って入る。ザングースはメタモンをにらみつけた。
「大人しくしろだあ? このザコどもを始末してから言えよ。こいつらに、俺の邪魔をさせるわけにはいかねえんだよ」
「黙るメタ」
 メタモンは、ザングースのにらみにも負けない強い口調で、言い返す。
「こんな狭い洞窟の中でバトルなんかしたら、洞窟が崩れて当たり前メタ。おまけに出口まで塞いでしまって……こんな状態の壁じゃあ、一個でも岩をどかせば、たちまち岩がくずれおちてくるメタ」
「じゃあどうすればいいってんだよ! 出口がふさがれちまったら――」
「奥へ行くしかないメタ。最奥まで行って、それから改めて出口を見つけるメタ。元々メタたちの目的はこの洞窟にあるメタ」
「そうだったな」
 ザングースは、マリルとマグマッグを見る。
「おい、てめえら。聞いたとおりだ。俺達は出られなくなっちまった。ここは一旦休戦するしかねえぞ。出るためには、俺達が力を合わさなくちゃならん」
 ずいぶん強引である。
「だがな、今この岩壁を取り除いても、また新しく落盤が起こる可能性だってある。ここの出口はもう使い物にならん。だから奥へ行って、そこから新しく出口を掘り出せばいい」
「そんなものなの?」
 マリルが尻尾を揺らす。ザングースは腹立たしげにマリルをにらみつける。
「他にどんな手があるってんだ。お前らが俺を壁にぶつけなければ、こんな落盤をおこさずにすんだんだ」
「襲い掛かってきたのは、そっちじゃん。正当防衛よ」
 マリルも負けじと、つぶらな目で相手をにらみ返した。その後ろでマグマッグが、ザングースがマリルを襲いやしないかとびくびくしていた。
「まあまあ、お二人さん、落ち着くメタ」
 メタモンが割って入る。
「ここは、協力して、一緒に奥を目指すメタ。一時休戦メタ。争っても、何の解決にもならないメタ」
 メタモンが間に入ったことで、ザングースとマリルは、にらみ合うのをやめる。そして、互いに一歩ひいた。どうやら、メタモンの言うとおりにしたほうがいいという事を理解したらしい。
「ここから先、メタたちの行く先に何が待ち構えているか分からないメタ。出口を探すためにも、メタたちは協力し合わなくてはいけないメタ!」
「……」
 ほかのポケモンたちは不満そうであったが、出口が塞がれてしまった今は、メタモンの言葉に従うしかなかった。


第3話へもどる第5話へ行く書斎へもどる